人×お酒の物語
Story
私が生まれ育った地元は、京都のサントリーの工場がある地域。私には、日本酒よりもウイスキーの方が身近な存在だった。日本酒のイメージは、パック酒で、一口飲んだら即バッタンキュー。味もアタックが強くて、それが、ザ・日本酒だった。そのイメージがガラッと変わり、私が日本酒というものに惹きこまれて行った最初のきっかけが、その「紀土」という文字が書かれたラベルの日本酒だった。
香りがフルーティで、それでいて爽やか。口に含んだら、さらさらしていてお米の旨味が優しい。お刺身と一緒に食べたら「うまい!」と思わずお店で小さく叫んでしまった。
そんな私の日本酒人生の序章をつくってくれたのが、和歌山にある平和酒造の「紀土」純米吟醸酒 春ノ薫風だ。
平和酒造の山本さんに会いたい!
『日本酒にはチャンスしかない』そうキラキラとした目で語る、平和酒造代表取締役社長4代目の山本典正さん。
私が日本酒を好きになったきっかけをくれた平和酒造の山本さんにずっとずっと、会いたかった。
今年のはじめに、「今年は絶対平和酒造に見学に行って、山本さんと会って話をするぞ!」という目標を掲げていたのだが、3カ月後に、あれよ、あれよとご縁に恵まれ、なんと!インタビューをさせていただくきっかけを得ることができた。私にとってはもう、天にも昇る心地であり、ずっと追っかけをしていたアイドルに逢えた時の感覚だ。気づけば頭の中では歓喜の舞を踊っていた(笑)
山本さんと実際にお会いして、さらに平和酒造が好きになり、山本さんへの尊敬がさらに膨らんでいった。
日本酒業界の低迷と平和酒造の挑戦
今、状況は変わりつつあるが、日本酒業界は50年間右肩下がりで低迷している。なくなってしまった酒蔵ももちろん存在する。
日本酒業界・酒蔵を盛り上げていこうとすると、目に見えない分厚い壁が存在しているように感じる。酒蔵は頑固というよりは、全ての酒蔵が新しいチャレンジや取り組みがなかなかできていないのが現状だ。そんな中、平和酒造の山本さんは果敢にいろんなことにチャレンジしている。
和歌山市駅の駅ビルに2020年、直営のスタンドバーを併設したショップをオープンしたのも、チャレンジの成果。
日本酒の店舗を駅ビル内に出店するのはなかなか難しく、和歌山市駅が50年に一度の立て直しをするということで、地元の酒蔵として一緒に挑戦を試みたという。
周囲の反応は、最初、ネガティブだった。というのも、酒蔵が出店すると、ビジネスパートナーである酒屋と競合になる可能性があるからだ。しかし、山本さんは諦めなかった。コンセプトショップを出すことで、蔵人と触れていただき、ものづくりの楽しさや、同年代の蔵人がお酒を造っていることを表現することで、人々の日本酒というものに対するハードルを下げたいと思っていたという。
平和酒造の酒造り
平和酒造は和歌山県海南市に位置し、昭和3年から続く酒蔵だ。
古代の文化圏の畿内に近く、西暦816年に開山された高野山や、西暦1000年くらいから始まったとされる熊野詣の熊野古道、 そして御三家の紀州藩等といった歴史ある県である。現在では蜜柑や梅、柿など果実の栽培が盛んで、和歌山県で手に入らない果実はないという。しかし、このような和歌山県にありながら、和歌山県海南市の溝ノ口は古くから稲作の盛んな土地だった。溝ノ口は、四方を山に囲まれ盆地になっているため、朝夕に厳しく冷え込む。さらに高野山伏流水である井戸水が豊富でもあり、酒造業を行う際に必要な 稲作、温度、豊富な水の3つの条件すべてがそろっているのだ。
この恵まれた環境を基礎にして、平和酒造は人材育成に力を入れている。
酒蔵では珍しく、大卒新卒を採用してお酒造りを行っており、20代の若い蔵人が集まっているという。これには、彼らと同年代の人にも、「日本酒を身近に」感じてもらいたい、若い人・海外の人にも日本酒を知ってほしいという思いも込められている。
日本酒業界を育てたいという平和酒造の意志は「紀土」という酒名にもあらわれている。「紀土」には、「子ども=KID」という意味も込められているからだ。
日本酒をブランドに
「日本酒を飲んでいて素敵だね」
日本酒をそんな存在にしたいと話す山本さん。
日本酒は文化であるといった崇高な理念から離れる必要はないけれど、おしゃれだよね、かっこいいよねというカジュアル要素は必要だという。ではそういう部分を大手メーカーが率いて行ってね、ということであれば同じことの繰り返し。だからこそ、平和酒造は、「平和酒造を面白く、酒蔵をさらに面白く」したいと、チャレンジすることで、中小の酒蔵でも取り組んでいけるチャンスがあることを示しているのだ。
IWCにて優勝
IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)は、毎年ロンドンで行われ、”世界でもっとも大きな影響力をもつ”といわれるワインのコンテストだ。そのIWCに「SAKE部門」が誕生したのは2007年。以来、SAKE部門の受賞酒は国内外で注目され、IWCは日本酒の海外進出における重要なイベントとして、その価値を高めてきた。このIWC2020にて、紀土の最高峰シリーズである「無量山」が最高賞を受賞した。
平和酒造の一押し商品でもある。
平和酒造の創業者は、江戸時代からの酒蔵である谷口酒造の谷口保という人物で、彼は婿養子として代々仏寺であった山本家の家督を継いでいる。「無量山」という名称は、谷口保が家督を継いだ、無量山超願寺というお寺に由来している。
ただ、だからといって伝統に固執し、留まるのではなく、さらに発展させ、より良い物を未来へと繋いでいく決意を「無量山」には込めている。
10秒くらいのものがたりの変遷を感じていただける、そんな日本酒。何秒かの世界の中に味や香りの世界が感じられる、ふくよかで丸みがあり、和でも洋でも合う日本酒だ。
オイル感のあるもの例えば、煮物や天ぷらなどはもってこいだという。
マリアージュにはチーズケーキを
私自身、いただいて、メロンみたいな香りがして、口に含むと口の中に酸味と旨味を感じ、まるでパイナップルの中にアルコールを感じるようだ。それでいて最後にキリッとした切れ味。品のある高級白ワインを飲んでいるようだ。
この日本酒に、濃厚な酒粕チーズケーキを合わせてみた。クリームチーズの風味が無量山にめちゃくちゃ合う!簡単に作れるのでぜひ試して欲しい。
材料
酒粕:50g
クリームチーズ:200g
卵:2個
きび砂糖:70g
小麦粉:大さじ4
生クリーム:120ml
作り方
1. 型にオーブンペーパーを敷き詰め、オーブンは200度に予熱する。
2. 常温に戻して、柔らかくしておいたクリームチーズと酒粕をボウルに入れ、ハンドミキサーで攪拌し、クリーム状になったら、溶き卵を2−3回に分けて加えながら均一になるまで混ぜ合わせる。
3. 2にきび砂糖と小麦粉を加えて滑らかになるまで混ぜ、生クリームを加えて型に流し込む。
4. 200度のオーブンで約40分焼く。
純米大吟醸にはいちごのサラダを
さらに、紀土フラッグシップ日本酒 純米大吟醸酒(右から4つ目)に合わせるレシピも紹介したい。いちごのような香りとジューシーな風味にはいちご大福も合わせてみたいけれど、ここで私が提案するのは……
材料
アスパラガス:3本
いちご:適量
サニーレタス:適量
A バルサミコ酢:大さじ3
A 塩:ひとつまみ
A 日本酒(紀土純米大吟醸):小さじ1
A 砂糖:小さじ1/2
A オリーブオイル:大さじ1
A ブラックペッパー:ひとつまみ
作り方
1. Aの調味料を全て混ぜ合わせておく。
2. いちごはヘタを切り落とし、2等分にする。アスパラは半分くらいまでピーラーで皮を向き、5等分にきる。
3. 鍋に湯を沸かして、アスパラを入れ、2分茹でたら水を切って冷ます。
4. 器にサニーレタス、アスパラ、いちごを乗せて、Aのドレッシングをかける。
今の時期にぜひ作ってみて欲しい1品だ。
山本さんのモチベーション
山本さんはこう話してくれた。
「IWCは通過点だ。平和酒造のマイルストーンとなり、次のフェーズに進めたと思う」と。
ものづくりにおいて、自己成長できるフェーズに来れたのだという。山本さんは現在代表取締役社長という立場で、この賞がとれたのは社員の努力のおかげだとも話してくれた。
平和酒造として「大切にしていること」を質問してみたところ、2つあるという。
①いいものを作るということ。
②いい形で伝えていくということ。
だそうだ。
「日本酒って素晴らしいものであり、価値のあるものだということを知って欲しい。昔はどのご家庭でも当たり前だった存在だけれど、ニーズから外れてしまってマイナーな存在になってしまった。普段の生活の中で楽しめるものなんだと、もっと知ってもらいたい」
と話す山本さん。
私は今回、お話を聞いていて、なぜ山本さんはそこまでストイックに先を見据え、自社の酒蔵だけでなく、日本酒業界を盛り上げたいと熱く切磋琢磨しているのか、そして、それを続けている理由、そのモチベーションはどこにあるのかがとても気になった。
山本さんは、インプットすることを大切にしていた。
「僕のモチベーションは、全く違う業界の人と出会ったときに上がるんですよ。」
とあるアーティストの音楽ライブに行く機会があり、そのライブは、2日間で5,000人を動員したという。ファン層も若く、コアなファン以外にライトユーザーもきている。それを見た時に、「日本酒業界はどうなのか?」と考えるのだそうだ。
日本酒でイベントをすると年齢層高めの人が参加してくれることが多く、クラフトビールやコーヒーとなると全く客層が変わってくるという。山本さんはここで「日本酒業界でまだまだやれることがある」と考える。ここにギャップがあることはラッキーだしチャンスと捉える。それがモチベーションになるのだ。
「変える余地があるのということは嬉しいこと」と話してくれた。
その上で、若手を育てて行くために、「自分のポジション(椅子)をいつ立つのかというタイミングは決められる。いつでもすぐ立たなきゃいけないという意識があれば動ける」とも。
社長というポジションも考えていかなければならない、それが原動力なのだという。
熱い話を聞いた。自分に厳しく、本気で日本酒業界のことを考えて、本気で変えていきたいとチャレンジをし続けているのだ。こういう酒蔵・代表の存在は、地元に根付いた全国の酒蔵のモチベーションにつながるのでは、と思う。日本酒業界には本当にチャンスしかないのだ。これに気づく、気づかないでは雲泥の差だ。平和酒造はこれからも率先してチャレンジをし、背中を見せてくれるだろう。
今回のインタビューをして、私だからこそできることにチャレンジして、そのチャレンジを継続したいと改めて思った。こんなに酒蔵が頑張っているのだから、私は、私のできることをしなければ、と。きっと読者にも勇気を与えてくれるはず。そんな魅力的な山本さんには、心からの尊敬、そして、私が日本酒人生を歩むきっかけをくれたことへの感謝をあらためて申し上げたい。
この記事の執筆及び監修
高岡 麻彩(Maaya Takaoka )
京都府出身。関西学院大学卒業。
日本酒サブスクリプションサービス「日本酒にしよう」CEO。年間50以上の酒蔵を訪問し、1,000以上の日本酒をテイスティング。燗酒コンテスト2021・ワイングラスでおいしい日本酒アワード2022審査員。きき酒師資格取得。
インドで「Sake box」をプロデュースし、海外の新規市場開拓にも貢献。「日本酒を知ることは、日本を知ること」をモットーに、日本酒は大切な文化であり、守り伝えていくべく国内外に活動を広げている。
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