人×お酒の物語
Story
何事も仕組み化する事が大切。
これは私が当時、楽天に勤めていた時に学んだことのひとつ。
どんな仕事をやる上でもベースになっている考え方だ。
自分がいなくても、うまく回る仕組みを作る、これはどんなビジネスにおいても必要不可欠だと思う。
その仕組み化を見事に実践している酒蔵があった。
お酒好きなら必ず知っている、かの有名な楯の川酒造だ。
楯の川酒造とは
上杉藩の家臣が庄内を訪れた際に水の良さに驚き、初代平四郎に酒造りを始めることを薦め、天保3年(1832年)に誕生した180余年の歴史ある酒蔵「楯の川酒造」。
経営ビジョンとして、「飲む誇り、取り扱う誇り、造る誇り、関わる全ての人の心を満たすブランドであれ」、「日本の酒文化、食、農業の発展に寄与する」、「全従業員の物と心、両方の満足度を高める」を掲げている。ものづくりを通して、人づくりを行う企業でありたいという想いで酒造りをしているのだ。
「ものづくりを通して、人づくり」
全ての根源になるようなこのワードがこの酒蔵を象徴していると思う。
蔵人が多い酒蔵
蔵全体で50人ほどが所属しているという。
造りの期間中でも、全員が週休二日をきちんと取れる。蔵人が働きやすい環境を整えることで、結果としてミスも減り、お酒の品質が向上していくという考えがあるからだ。
部署は、製造部/マーケティング部/経営管理部などに分かれていて、ジョブローテーションも実行しているため、酒蔵というよりもどちらかというと会社とよく言われるそうだ。
週休二日制のため、全員が顔を合わせることが意外と少なく、クラウドサービスなどのシステムもうまく活用し情報共有をしているとのこと。
そんな酒蔵はやはり、お酒造りのこだわりがすごかった!
お酒は原料と、その酒蔵がある気候や風土、さらに磨きなどの技術、そして、麹・酵母など目に見えない世界の饗宴により出来上がる。楯の川酒造は細部に至るこだわりがあった。
お米に対してのこだわり
精米を「良い酒造りの第一歩」と捉え、1990年代から自家精米を行なってきた。
楯の川酒造では、原料米の調達から精米、造り、貯蔵までの全てにこだわっており、綺麗な酒質を求めるのであれば、精米には特に細心の注意を払うべきだと考えている。いまでは、契約農家20人と密にコミュニケーションを取り、全量契約栽培でお米を作る。個別に連携を取っていくのは大変だが、その分、「顔が見えるお酒造り」ができるのが特徴だ。蔵の個性を下支えする精米の工程は、楯の川酒造の屋台骨と考え、これからもこのスタイルを貫いてゆく。
「出羽燦々」と「美山錦」
この酒蔵は、製造量の8割を山形県産の「出羽燦々(でわさんさん)」と「美山錦(みやまにしき)」で賄っている。
出羽燦々はシルキーで優しい口当たりのお酒、美山錦はシャープで酸味のあるお酒だ。
これら地産にこだわる理由は3点あるという。
- 庄内地方は有数の穀倉地帯として稲作が古くから営まれていることから、地元の農業に貢献したいため。
- 山形県産の酒米を使い、山形の風景が思い浮かぶような地酒で国内外にYAMAGATAをPRしたいから。
- 酒米栽培から日本酒製造まで、一貫して造り手の顔が見えるようにしたいから。
山形にある酒蔵だからこそ、山形県に昔からある農業に貢献し、手を取り合って、山形県を盛り上げて行きたいのだと伝わってきた。地域の人たちの愛の循環を促す、この酒蔵に勤めて、お酒作りに関わる人たちはどんな人なのだろう。
今回、有難いことにマーケティング部メディア課、課長の北山さんにお話を聞く機会を得た。彼は酒蔵へ入って、6年だという。もともと愛知県の居酒屋でアルバイトをしていたときに日本酒の魅力に引き込まれて行ったのだそうだ。マーケティング部として、2030年への道のり、そして、今後楯の川としてどういう未来を描きたいかを語ってくれた。
2030年に向けて。ワイナリーも
日本の伝統文化の一つである「日本酒」の素晴らしさを国内外に発信していきたいというのが一番の想いです。世界中の高級日本食レストランで提供される日本酒に成長していきたいです。だから今後は海外輸出にさらに力を入れていれて行きたい。
日本食の普及とともに、日本酒が世界の人々に認められ、世界中の人々を魅了する”Sake“になる事を目標に毎日お酒造りに向き合っています。
また、2032年に酒蔵が200周年を迎えます。その先100年も続いていけるよう、基盤である日本酒だけでなく、ブドウの栽培~ワイン醸造まで一貫して手掛けるワイン事業を開始しています。9月にワイナリーが完成する予定なので、本格的に日本ワイン業界に参入し、これから幅を広げていきたいと考えています。
今後造っていきたいお酒
ブランドの価値を上げて、高級酒の市場を拡大していきたいと考えています。安くて美味しいお酒だけでなく、山形の情景が思い浮かぶようなストーリー性のある高付加価値なお酒を作っていきたいと考えています。
私にとって日本酒とは、ひと言で言うと、「自分の人生になくてはならないもの」です。
「日本酒好き」というのが自分の個性なので、仕事以外の友達にも日本酒の楽しさをもっともっと伝えて、日本酒を飲む若者を増やしていきたいと思っています。
全ての話を聞いたときに本当に素晴らしい酒蔵だとつくづく思った。人づくりがあるからこそ、より良いものづくりができる体制になるのだ。農家の人が、蔵人が協働できる体制を造るところからお酒造りは始まっている。関わる人の汗と努力の結晶が、お酒の発酵を促し、1本、1本の形となって、表現されて行くのだ。
仕組み化できるからこそ、人と人の輪が広がり、全てが「幸せ」で繋がっているのだと深く頷くばかりだった。
化粧箱に入った高価で、ギフトにも喜ばれる日本酒。
山形県が大吟醸・純米大吟醸向けに開発した酒造好適米・雪女神を18%まで自社精米。「蔵人が魂を込めて造り上げたお酒を多くの方々に飲んでいただきたい!」という造り手の熱い思いが込められているという。
香りと風味は繊細で綺麗で、それでいて柔らかい。まるでシルクのような柔らかい肌触りを感じながら、太いベルトでウエストをキュッとしめて9センチのヒールを履く。そんなアグレッシブさを感じるファッションスタイル、そんなイメージだ。優しい中に芯がある。これからお中元や感謝を伝える場所でぜひ手にとってみて欲しい。
日本酒ひとまわしレシピ
『さくらんぼのひんやり酒ジェリー』
夏のご挨拶の時期にもおすすめな酒ジェリー。
優しい日本酒の甘さとさっぱりレモンでこの夏ぴったりな爽快な風味が楽しめます。
<用意するもの>3人分
・日本酒(楯の川ご紹介のお酒):100cc
・水:200cc
・砂糖:大さじ2
・レモン汁:大さじ1
・さくらんぼ:3個
・粉ゼラチン:5g
・お水:大さじ1
<作り方>
- ゼラチンは水で混ぜてふやかしておく。
- 鍋に水、日本酒、砂糖を入れ、砂糖が溶けるまで中火で熱する。
- 2にレモン汁を加え、ゼラチンを入れ、溶けるまで混ぜる。
- 器にさくらんぼを入れて、粗熱が取れた3を注いで、冷蔵庫で3時間以上冷やし固める。
楯の川酒造:https://tatenokawa.com/ja/sake/
オンラインショップ:https://shop.tatenokawa.com/
取材協力:大沼史枝
この記事の執筆及び監修
高岡 麻彩(Maaya Takaoka )
京都府出身。関西学院大学卒業。
日本酒サブスクリプションサービス「日本酒にしよう」CEO。年間50以上の酒蔵を訪問し、1,000以上の日本酒をテイスティング。燗酒コンテスト2021・ワイングラスでおいしい日本酒アワード2022審査員。きき酒師資格取得。
インドで「Sake box」をプロデュースし、海外の新規市場開拓にも貢献。「日本酒を知ることは、日本を知ること」をモットーに、日本酒は大切な文化であり、守り伝えていくべく国内外に活動を広げている。
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