人×お酒の物語
Story
アラン・デュカス氏とジェラール・マルジョン氏との緊密なコラボレーションのもと、
山梨銘醸が生み出した独自のスパークリング日本酒だ。
「2030年、スパークリング日本酒として知名度をNo1にしたい」と語る、
山梨銘醸で醸造責任者を務める北原亮庫さん。若き醸造家の熱意に迫ります。
旨味と酸味、爽快感が絶妙なスパークリング酒
まるで、シャンパンのようなフォルムのスパークリング日本酒が登場した。世界11カ国で三ツ星を含む約30のレストランを統括するアラン・デュカス氏とアラン・デュカスのレストランのソムリエを統括するエグゼクティブ・シェフ・ソムリエ ジェラール・マルジョン氏との緊密なコラボレーションにより、山梨銘醸が造り上げたものだ。
白州の清らかな水と調和した酒造りを行う山梨銘醸の酒造りに、アラン・デュカス氏が持つ地中海から来ている深いインスピレーションが融合している。地中海料理に、和のエッセンスが組み合わさった、そんなイメージだ。
まあるいお米の甘さを感じる旨味と、お料理には必須のエレガントな酸味、最後の飲み口にキリッとした爽快感も感じられる絶妙なバランス。さくらんぼの風味が感じられるのは、桜の木でできた樽を活用した樽熟成のスパークリング酒だからだ。
クラシックとモダンを融合し、洋と和のインスピレーションを調和させて、五感を研ぎ澄まされていくような、山梨銘醸の酒。日本酒業界を大きく変えてしまうようなパワーを秘めている酒蔵に取材をさせていただく機会を得た。
取材をさせていただいたのは、アラン・デュカススパークリング酒を生み出した、醸造責任者、北原亮庫さんだ。
過去を乗り越え、新たな「七賢」をスタート
北原亮庫さんは大学卒業後からお酒造りに携わり、15年。2014年に醸造責任者になり、現社長である兄の北原対馬さんと二人で酒蔵を切り盛りしている。大学卒業後、半年間アメリカへ。その後、3年間岡山の酒蔵で酒造りを経験し、25歳の時に山梨銘醸に戻って来たという。
もともと、山梨銘醸の酒蔵の生産量は1万石の設計だったという。しかしピークでも9000石。ご兄弟が酒蔵に帰ってきた頃には1700石にまで落ち込んでいた。最盛期は毎年20人程の蔵人が新潟から来ていたのが、当時は7人でやっていたという。2人は、2014年から、酒質を向上させるための大改革を実行し、様々な取組みを経てV字回復に成功した。今までの大量生産型の社内体質を見直し、最大製造数量を4000石に制限。現在では3000石を製造している。
今までのお酒を愛飲してくれている人もいただろう。しかし、「新しいお客様に楽しんでもらえるお酒を造る」改革に迷いはなかったという。今では、お客様から「七賢は変わったね」、「七賢は美味しくなったね」、そして「どれを飲んでも七賢らしい味わいだね」と言われるようになったのだそうだ。
今までやってきたことを変えて、新しいことにチャレンジするというのは、大層勇気がいるものだ。それを前向きにサラッと成し遂げてしまう、そんな風に見えた。その自信やお客様の喜ぶ姿を信じて前進していく強さ。そこには何かがある。その「何か」を突き止めたくて私は心がうずうずした。
酒造りを支える白州の水
「白州の水を体現するお酒づくり」が一番大事だと話す北原さん。山梨はミネラルウォーター生産第1位。シェア約30%の水資源王国なのだそうだ。
このNo.1の地、山梨県の白州の水で作っている酒蔵は七賢を醸す山梨銘醸だけ。日本酒は何と言っても水が大事。原料比率としても水が一番高い比率を占める。お米を洗い、洗米した後の吸水、蒸気も全て水である。原料米が水をどれだけ吸水するかで出来上がる味わいも全く変わる。そのため、水をどのように扱うかが大事なのだ。水との相性を考えていくことが七賢の味わいを造っていく上では必要不可欠だ、と北原さんは言う。
日本は水道水をそのまま飲むことができる国。世界的に見て、かなり恵まれている。日本人は、水が美味しいのはなんとなくわかっているけれど、お酒を造る人は、そこにもっとフォーカスしていかなければならないと北原さんは提議する。
自然に感謝して、自然環境をよりよくするという視点を持って酒造りをしないといけない、というのだ。
その考えに行き着いたのは、北原さんがお酒造りをスタートした頃、お酒を買って分析して、同じものを造ろうとチャレンジしたのがきっかけだった。同じように造ってみるけれど、なかなかうまくいかない。その理由が、地域によって水が違うということにあると気づいたのだそうだ。
そこから、水をつくる要素をまとめていくことが地域・地方を盛り上げる地酒になるという考えにいたった。水を生んでいる山、濾過している岩質によって、水に含まれるミネラルの差で、水は変わる。水に含まれているもののバランスが大事なのだ。
農家の人と、地域の人と
酒造りは米作りから始まる。山梨銘醸は、北杜市35軒の契約農家と取引し、農業法人も持つ。自分たちでお米の生育を見守りながら、定期的に田んぼに行って農家の人と一緒に酒米から作っていく。なぜなら、米作りにおける、お米の状態などの情報があるかないかで、酒造りのスタートが全く違うものになるからだ。情報がないと、お米を探るところから酒造りが始まってしまい、思い切ったものを造れないのだそうだ。
北原さんはこのように教えてくれた。
「酒を造る立場になって、地域があって僕らがいると、より感じるようになった」
農家の方々との信頼関係のもと、お米が作られていて、酒造りを通して、地域の人と結び合って連携してきた。定期的に酒蔵では七賢マルシェを開催している(現在はコロナ禍で開催はしていない)。県内の大きな酒蔵だからこそ、地域に貢献、恩返しをしていかなければならないのだという。
スパークリング酒が生まれるまで
七賢の味わいは、舌を包み込むような、若干の甘みを感じる軟水の酒。グラスに注ぐととろっとした質感で淵を垂れる。それが「白州の水を体現するお酒」だ。
山梨銘醸は2015年から2021年までに、9種類のスパークリング酒を造ってきた。米と麹は一緒だけれど、酵母を変えたり、貴醸酒にしたりと試行錯誤して、製法を全て変えている。
アラン・デュカススパークリング酒を造っていく際は、シェフ・ソムリエのジェラール・マルジョン氏からこういうイメージで造って欲しいという20個くらいのキーワードをもらったそうだ。しかしそのキーワードを咀嚼し、お酒にそのキーワードを入れ込んでいくのは非常に緊張感があり、難しい作業だった。何故なら、そのキーワードには「日本らしく」「世界が納得する酒」というようなものがあったからだ。
北原さんは、独自の製法を編み出していった。
「日本らしさ」は桜の樽で表現。「世界が納得する」は、彼らのお店に来る人たちが納得するものとした。それは、驚きの第一印象だけで終わらず、頷く印象・感覚があるということだと噛み砕き、それを酒質へ展開した。桜樽・貴醸酒の造り方・果実味のある酵母という3つの特徴をブレンドし、アラン・デュカススパークリング酒が生み出された。
北原さんを突き動かすもの
素晴らしいお酒を造るための秘訣はズバリ「人のコンディション」だと北原さんは話す。酒造りは一人ではできない。現在山梨銘醸は8人で酒造りをしている。少人数だが、常に誰かしら休む日を作っている。昔は休むことができなかったけれど、北原さんが労務環境を変えていった。1つの作業を2人以上ができるようにしたり、コミュニケーションを密に取ることを意識したり。酒造りは、自発的に行動できる仕組みや雰囲気が大切なのだ。「雰囲気が良くなると酒が良くなる」という。
日本はシャンパンの輸入国として世界第3位。泡好きの国だ。北原さんがスパークリング日本酒を造っているのはそこに潜在的なマーケットがあると見ているから。
七賢のターゲットは日本酒業界だけではない。国内で60%以上のシェアを持つ、シャンパン・スパークリングワイン・ビールやハイボールを含むスパークリング業界がターゲットなのだ。ブランディングを強固なものにするために、IWC、Kuramaster、全国新酒鑑評会、Sakecompetition、の4つのコンペティションに絞ってエントリーしている。
北原さんは、酒造りは自分自身だと教えてくれた。
幼い頃からサッカーが好きで、そのスポーツの経験が今に生きているという。サッカーは勝ち負けを競うスポーツ。勝つために戦略と戦術を持ち寄って、最短距離で“勝つ”ためにどうするかを考える。そのサッカーで培った考えは、自身の人間形成や、普段の生活を作っている。
酒造りにおいても、ゴールに最短距離で行くためには、どのようなお酒を造り、展開して行くのか。北原さんの頭にはロードマップがある。そして、心がけているのは「いつも変わらない意識でいること」だそうだ。上に立つ者として、自身のモノサシやビジョンを社員やスタッフにきちんと伝えることで、チームで一体となって進んでいけるのだ。
日本酒は「生まれ育ってきた結晶」
北原さんにとって日本酒はどういう存在なのか、とたずねると、「白州の地に生まれ育ってきた結晶」だと教えてくれた。北原さんご自身が、酒造りをスタートされたときから、今に至るまで、その努力や挑戦、その中にある苦悩やストーリーが歴史となり、たくさんの小さい気泡となってスパークリング酒に染み込んでいるようだ。
「2030年、スパークリング日本酒として知名度をNo1にしたい」というゴールに向かって猛スピードで進んでいく、七賢のこれからが楽しみでならない。きっと、2030年、皆があっと驚くことを仕出かしてくれるに違いない。
Alain Ducasse Sparkling Sakeに合わせたい
「桃の冷製カッペリーニ」
さくらんぼのような風味に同じ系統の桃を持ってくることで風味の方向性を統一し、夏に食べたい冷製カッペリーニに仕上げた。
<材料>2人分
・パスタ:200g
・桃:1個
・ミニトマト
・生ハム:4枚
・バジルの葉:適量
・パルメザンチーズ
調味料A
・オリーブオイル:大さじ2
・レモン汁:大さじ1
・にんにくすりおろし:小さじ1
・造り酒屋の塩麹(山梨銘醸):小さじ2
・こしょう:ひとつまみ
<作り方>
(1)桃は凹みに沿って、包丁を入れ、皮を向いて、一口大にカットする。
(2)ボウルにAの調味料を入れ、1とよく混ぜ合わせる。パスタを茹でている間、冷蔵庫へ。
(3)パスタが茹で上がったらしっかり冷水で洗い、水を切る。
器に3を盛り、2をかけてバジルの葉とミニトマト、生ハム、パルメザンチーズを飾れば出来上がり。
この記事の執筆及び監修
高岡 麻彩(Maaya Takaoka )
京都府出身。関西学院大学卒業。
日本酒サブスクリプションサービス「日本酒にしよう」CEO。年間50以上の酒蔵を訪問し、1,000以上の日本酒をテイスティング。燗酒コンテスト2021・ワイングラスでおいしい日本酒アワード2022審査員。きき酒師資格取得。
インドで「Sake box」をプロデュースし、海外の新規市場開拓にも貢献。「日本酒を知ることは、日本を知ること」をモットーに、日本酒は大切な文化であり、守り伝えていくべく国内外に活動を広げている。
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